最後の指名客

深夜零時
高級会員制エステサロン「アリア」
そこは政財界の人間や著名人だけが訪れる、謎に包まれた極秘高級エステサロン店

山本修司は、政財界のコネを頼りにようやく予約ができた
高級感のある扉を開け薄暗い装飾された廊下を進み
修司は個室へ案内される
今夜、彼が指名したのは「美月」というセラピスト
顔、体型はまだわからない
ほどよい緊張感が体に走る
部屋奥に案内され施術部屋で待機
しばらくすると『コンコン』とノックが
『失礼します』と扉が開く
緊張の瞬間だ
現れた女性に、修司は思わず息を呑んだ
艶やかな黒髪
白磁のような肌
静かな微笑み
不思議な色香が漂っていた

こんな女性は初めてだ
「お待たせいたしました」
落ち着いた声
どこか心の奥を撫でるような響き
そして施術が始まると、修司は次第に現実感を失っていった
アロマの香り
柔らかな音楽
女性の穏やかな声
そして妖艶に攻めるセクシーな施術にとろけそうだ
気づけば、自分でも忘れていた昔の記憶が次々と蘇る
大学時代
初恋
結婚
離婚
そして――あの三年前の夜の記憶が、、、
突然、女性が尋ねた
「奥様は、今もお元気ですか?」
修司の心臓が止まりそうになる
元妻は三年前に失踪しているのだ
警察は事故として処理したはず、、、
遺体は見つかっていない
「なぜ、妻のことを知っているんですか?」
女性は微笑むだけでセクシーな施術が続く
質問にもやもやしつつも妖艶な施術に身体がのけぞってしまう
そして硬くなった卑猥な肉棒が紙パンツから飛び出した瞬間、、、
部屋の温度が少しずつ下がっていく
ふと横の大型鏡を見る
そこには修司しか映っていない
美月の姿がそこにはなかった
全身から冷たい汗が流れると共に硬くなった肉棒は一瞬にして縮こまっていく
修司が思わず「君は誰だ……」
女性は耳元で囁く
「本当に忘れたのですか?」
その瞬間
修司の脳裏に封じ込めていた記憶が弾けだす
三年前
あの山道
激しい口論
元妻の涙
崖際
突き飛ばした手
落下する影
――事故ではなかった
自分が殺したのだ
修司は施術台から転げ落ちる
「違う……!」
だが記憶は鮮明だった
彼は罪を隠すために証拠を処分し、事故として偽装していたのだ
女性は静かに立ち上がる
その顔が少しずつ変化する
美月の顔
元妻の顔
知らない女性の顔
次々に入れ替わる
「あなたは誰なんだ!」
修司が泣き叫ぶ
女性は妖しく微笑んだ
「私は、あなたが忘れた人たち」
部屋の照明が消える
暗闇の中で無数の女性の囁き声が聞こえた
修司は恐怖に耐えきれず、部屋を飛び出した
廊下を全速力で走る
受付へ向かう
だが店内は誰もいない
出口も見つからない
永遠に続く廊下だけが伸びている
そして背後から女性の声が、、、
「お帰りなさいませ」
振り返る。
美月が立っている
しかし今度は修司が気づいた。
受付の壁に飾られた会員名簿
そこに自分の名前がある
だが会員番号の横には、こう記されていた。
『故人』
修司は凍りつく
その瞬間、全てを思い出した
三年前
崖から落ちたのは元妻ではなかった
争った末に足を滑らせたのは、自分だった
死亡したのは修司自身
元妻は生きていた
警察が発見した身元不明遺体こそ、自分だったのだ
三年間
彼は自分が生きていると思い込みながら、この世を彷徨っていた
美月は優しく微笑む。
「やっと思い出しましたね」
背後に扉が現れる。
その向こうには月明かりだけが広がっていた。
「さあこちらへどうぞ」
修司は震えながら尋ねた。
「ここは……何なんだ?」
女性は最後に微笑んだ。
「人生で最も隠したかった真実に出会うためのエステサロンです」
扉が閉まる
翌朝
そのビルには空きテナントの看板が掛かっていた
管理会社の記録によれば、その階にエステサロンが存在したことは一度もない
ただ、防犯カメラには奇妙な映像だけが残っていた
誰もいない薄暗い廊下を、一人の男が深夜零時
ちょうどに歩いていく姿が
そして彼は二度と戻ってこなかった

