凛と100人のお客様 #4密室で、女になる

今日も、私は「凛」になる。
今月に入り、私は私でなくなる数時間を過ごしている。
四人目のお客様は、しゅうやと言うらしい。
ドアを開けた瞬間に感じた。営業の人特有の雰囲気。
スーツの皺、笑う前に探るような目線。
多分、女慣れしている。けれど、目の奥は少しだけ疲れているように見えた。
「こんにちはー」
そう言った瞬間、胸の奥で小さく何かが鳴った。
モニターで確認したときには感じなかった、この空気感。
—だめ。3日目でときめいてるなんて、早すぎる。
私はスッと笑顔をつくり、中へと促した。
同意書にサインをしてもらう間、視線の端で彼の指の動きを追う。
ペンを握る手が思いのほか大きくて、ときめきを感じる。
動くたびにスーツの袖口から覗く腕の筋が目に入る。
その輪郭を、つい目の奥でなぞってしまう。
シャワー室へ案内すると、彼は軽く笑って「ありがとう」と言った。
その声に胸の奥が小さく跳ねる。
彼がシャワー室のドアを閉めた瞬間、私は深く息を吸い込んだ。
—落ち着け。冷静でいなきゃ。
湯気の向こうで水音が響く。
それを聞きながら、自分の鼓動を数えた。
一、二、三……
どうしてこんなに早いの。
彼が戻ってきたとき、室内の空気が少しだけ熱を帯びたように感じた。
タオル越しに見える体の輪郭が、妙に意識に触れる。
「うつ伏せでお願いします」
声が少し震えていた。
施術が始まると、私は指先に全ての意識を集めた。
足、腰、背中……ゆっくりと。
指が触れるたび、彼の体が小さく反応する。
その呼吸の変化が、空気を震わせる。
ふいに彼の手が私の腕を掴んだ。
ゆっくりと力がこもる。
「……ちょっと、待って」
口ではそう言いながらも、体が拒めなかった。
指先が首筋をなぞるたび、呼吸が乱れていく。
彼は言葉をほとんど使わない。
ただ、「いいだろう」というように、目で合図を送り、ぐいぐいと迫ってきた。
服の隙間を探る指先が熱い。
あっという間に、胸はあらわになった。
その瞬間冷静ではいられなかった。
一瞬、心がどこかへ飛んだ。
私はセラピストで、これは仕事。
なのに、胸の奥で波が立つ。
「ダメ……」と言った声の裏に、自分でも知らない熱が混じっていた。
男の掌が、私の体の奥をゆっくりと探ってくる。
感覚が絡まり合って、どこまでが現実か分からなくなっていく。
手のひら越しに感じる、彼の熱とともに、快楽の波が押し寄せてくる。
まるで合図のように、鼓動が早まる。
ふいに動きが急に変わった。
その瞬間、心臓の音が爆発した。
——達してしまった

抗えなかった。言葉では「ダメ、それ以上は……」と口にしても、
体はもう、逆らえなかった。
私は、余韻に浸って震えていた。
そんな私のことは気にせず、彼の指が迷い込むよう、奥に、奥にと進んでくる。
凜はもう自分の快楽の渦に飲み込まれていた。
凜からは熱いものが溢れ、呼吸が途切れていた。
(恥ずかしい……)
どこまでが仕事で、どこからが私なのか、境界が溶けていく。
空気が湿り気を帯び、室内が静寂に包まれた。
音も言葉も消えて、ただ体の奥で波が打ち寄せる。
そのあとも、彼は何も言わなかった。
私は恥ずかしさからか、自ら手を伸ばす。
しゅうやの熱くなったものをそっと包み込む。
手の中で脈打つ感覚が伝わってくる。
最初から、こうなっていたのを、私はしっかりと見て感じ取っていた。
凜が手を動かすたび、彼の息が荒くなり、
やがて、深い吐息とともに静かになった。
しゅうやはすぐにはてた。
彼も我慢の限界だったのかもしれない。
不思議だった。
彼は私に興味があるようで、まるでない。
名前も、年齢も、きっとすぐ忘れるのに。
出会った瞬間から彼は最高潮に興奮していた。
残り時間を惜しむように再び私は、しゅうやに手を伸ばした。
すると彼もすぐに反応を返す。
再び、熱が蘇る。
(すごい……時間内に2度も……)
—これは、仕事。
—だけど、心はもう仕事じゃなかった。
今日もまた、私は密室で自分を試す。
お金、欲望、秘事。
その全部を混ぜながら、女として、セラピストとして。
次に会うとき、彼はまた同じようにハグをしてくれるだろうか。
それとも、別の誰かを抱いているだろうか。
その答えを、私はまだ知らない。
