【小説】Melty Droid Chocolate プロローグ
「チョコちゃん。これからは誰も助けに来てくれないお部屋で、どんな事をされても笑顔で、飽きるまでめちゃくちゃにされるんだよ」
チョコと呼ばれた手のひらほどの大きさのそれは、性欲と手慰みの目的のためだけに作られた愛玩物である。便宜的な名前はあってもそれ自身の名前ではなく、まだ生き物としての感情も持っていない。理想的な、従順の、可愛らしい顔を持ち主に向けていた。同じ大きさの、既に生き物としての自我のある面々は別の檻に入れられて、談笑している。仲が良いのかはわからない。
「あの子たちが気になる?うーん。あぁ、そうだ、桃色の子はね、元々はおちびちゃんと同じ目的で造ったんだけど、思ったよりも早く手を離れちゃってねぇ。それに今では僕の大事な医療スタッフなんだ。その隣のふわふわ髪は、その子のペット。髪の短いのは……一番古くからいる子でね、もう何度も造り直してようやく落ち着いた子。全員、僕よりももうずっと優秀だから、ダメなんだ」
語りかける声は慈しみと、悲しみが混じっている。
「でもチョコちゃんは、そんなことにならないように、念入りに造ったんだ。……人に言えないような事もしたし、これからもするよ。だから、がんばってね」
「はぁい」
チョコの顔には愛玩物であるという証明、あるいは、持ち主の呪いとしてのバーコードが描かれている。消されることはないのだろう。青い風船の犬が首根っこを掴まれそばに置かれる。
「ちゃんと、可愛がってあげるよ。お洋服も作ってあげるし、いろんなものを買ってあげる。可愛いお洋服を着た子が好きだし、作るのも好きだからね。縫い物は好きなんだ」
バリバリとパッケージを開ける音がする。チープな造りをしたステージが組み上げられ、チョコはそれを犬に触れながら眺めていた。ゴム風船が息をしている。好きに名前をつけていいよ、と言いながら、持ち主は出来上がったステージを確認していた。
「見たことないんだけど、これ、前に出る台があるよぉ。ここにポールを立てて、縛り付けてさ、チョコちゃんがめちゃくちゃにされるのが見たいな。観客を呼ばないといけないな。ストリップって、いつか本物を観てみたかったんだけど、僕はそういうのがもう、本当に、ダメになっちゃって」
ガサガサとした水色のアイドルドレスを着せられた。肌に当たる安物のマジックテープは肌を引っ掻いている。
チョコは持ち主の言葉を理解している。何が"ダメ"なのかも。それはチョコを造られた理由であり、チョコがこれから凌辱される理由である。
ステージの上に据えられたチョコに生き物としての感情はない。添加されるのは持ち主の性欲と、自虐と、悲鳴である。
