母乳教師 智春(分冊版1/5)
<プロローグ>
酒と煙草の匂いの入り交じった、饐えたような匂いが薄暗い部屋中を充たしていた。
カーテンを閉め切った六畳ほどの広さの部屋の中に、ニキビの跡も初々しい少年が二人、何をするでもなく、退廃的な表情を顔に浮かべたまま、床に寝転がり、それぞれに煙草をくゆらせて、だらだらと過ごしていた。
「ああ!クソッ!」
相田将司が吠える様にして、今まで見ていたグラビア雑誌を床に放り投げる。
「どうした?将司?また、いつものか?」
その隣でぼんやりと横になってブラウン管に映し出される無修正もののアダルト・ビデオを見ていた江沢卓が、皮肉っぽく笑いながら尋ねる。
「クッソーっ!なんだって、こんなに憂鬱なんだよっ!」
「人生に張りが無くなったからだろ?いつもそう言って泣き出すじゃねぇか」
江沢の冷静な指摘に、相田は二の句が付けなくなって、押し黙った。事実、中学に入学して以来、相田は江沢の言うようなことを叫んでは泣きだすということを続けてきていた。
「まあな、お前が荒れ続けるのもわかるさ。何せ、合格確実だったわけだしな、付属中……。それを纐纈のバカがぶっこわしたわけだからな……」
江沢はつまらなそうにビデオを止めると、相田を振り返り、口を開いた。
「優等生っつーか、一番の秀才だったお前を、こんな風にしたのは、あの女だ。それは間違いがない。そして、オレをこんな風にしたのもあの女だぜ。何せ、オレ、一番受験に大事な時期を、あいつをオカズにしたオナニーでつかい果たしたようなもんだしな。刺激的過ぎんだよ、あいつ。小学六年生には、きついよな、ああいうとんでもないグラマーでいやらしい顔した女が担任になるってのはヨ。しかも、あの女、オレたち途中でほっぽりだして、子どもを産むために休みやがったんだ!あいつが居なくなった後、俺たちがどんなに苦しんだと思ってんだろうな?何が、個性を大切に、だ!あいつのワケのわからない指導方針とやらで、俺たち内申全部おじゃん!だぜ?」
江沢は自分の言葉に次第に酔ってきたのか、どんどん言葉を吐き出すペースを速めてまくし立てる。
「おいおい、卓。お前も、またそれだ」
相田が困ったように言うと、漸く江沢は口を閉じた。
「いや、わりぃ……。でもよ、そう思わねぇか?俺たちがあんな底辺中学に通う羽目になってるのも、みんなあの女のせいだぜ?」
「そりゃ、そうだ。でもよ、どうしようもねぇよ。あんな自己陶酔型のバカな教師に担任された時点で、もうダメだったんだよ、俺たち……」
「バカ!何言ってんだよ、将司!だからこそだろ?だからこそ、あの女どうにかしなくちゃいけないんだよ!畜生!いくら妊娠したからって、何もあんなに乳デカくしなくてもいいだろうが!ボテ腹をゆすりゆすり授業しなくてもいいだろうが!あーっ!くそっ!」
江沢はそこまで、言うと、再びビデオの再生ボタンを押す。内容は、一般的なアダルトビデオの範疇には必ずしも含まれない、母乳モノであった。搾乳器を、真っ黒く変色した乳首に押しあて、母乳を搾り取ったり、モデル自身が乳首を摘んで母乳を飛ばして見せたりする内容のものであった。
「卓……、オレ思うんだけど、お前、纐纈のことずっと好きなんだろ?」
不意に、相田が江沢の後ろ姿に囁きかける。
「な、何言うんだよっ?お、オレは、あの女のことは恨みこそすれ……」
自分の言葉に慌てて振り返った江沢の姿に、相田は笑って見せた。
「お前、あの纐纈の妊娠してどんどんデカくなっていく乳を、いつも物欲しそうにみてたよな?そして、同じようにデカくなってく尻も、じっくり見てたぜ。わかってるって、お前がそんなビデオを飽きもせず見てるのも、全部纐纈の代わりに過ぎないってことはさ」
江沢は相田の顔を見つめたまま、何も言えずにいた。相田に自分の心の中を完全に見透かされていたことに、軽い気恥ずかしさを感じながらも、次の相田の一言を待っている。
「この際、犯っちまおうぜ、纐纈を。どうだ、卓?」
さらりと相田が言ってみせた。
ずっとその言葉を口にはしなかったが、二人の間には常に共通の想いが存在していた。
二人の人生を少なからず左右した、女教師への想い。かつては、純粋に慕い、尊敬し、恋心まで抱いた存在。それが今では憎悪の対象となっている。
しかし憎めば憎むほど、二人の中で、女教師の肉体への憧れと欲求は強くなっていった。あの女をズタボロに犯してやりたい!という想いは、二人が最もそうした行為に興味も欲求もある年頃ということもあっただろうが、日に日に深く強くなっていく一方だったのだ。
「お前にはっきりと言ったことはなかったけどな、オレも纐纈好きだったんだ。無論、今じゃ、とにかく無茶苦茶にしてやりたいだけなんだけどな。……オレ、お前がその気なら、手を貸すぜ……」
相田の冷静なのか、やけっぱちなのか判別のつきにくい表情を見ながら、江沢は、かつては優等生だった親友に決定的な変化をもたらした纐纈への深い憎しみを感じた。そして、自分もまた纐纈という女教師にからめ取られていると今更ながらに思った。あの女教師の豊満な肢体を思うとき、江沢は自分自身でも抑えきれないほどの渇望に近い欲求を感じるのだ。そしてそれが結果的に、江沢の受験失敗を導いたのだと言っても過言ではなかった。
「……犯るか……犯ってしまわないと、俺たち、先に一歩も進めない……」
江沢が呟くようにして口に出したのを、相田は聞き逃さなかった。
「そうか!犯るか!よし、犯ろうぜ!そうと決まったら、いろいろやることはあるぜ、これからよ!」
相田が、受験に失敗してから本当に久しぶりに、会心に近い笑みを浮かべている。
その笑みに急かされるように、江沢はビデオを止めて立ち上がった。
二人の少年の胸の中に、独りよがりで衝動的な、激しくどす黒い欲求が、炎のように燃え上がっていた。
育児休暇中の女教師、纐纈智春を犯すという、目的へ向けて……。
