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ハルカ

出張の朝、四歳の娘が玄関でスニーカーのマジックテープを上手に留めて見せた。

 

「パパ、ふくおかって遠いの?」

 

「ちょっとだけ遠いかな。でもすぐ帰ってくるよ」

 

妻は笑って、「お土産は明太子以外でね」と念を押す。

鏡に映る自分の髪は、子どもの頃から変わらない淡い茶色。祖父がアメリカ人で、その血の名残りだと母に何度も言われてきた。娘も最近、陽の下では少しだけ髪が透けて見える。そんな些細なことが、家族のつながりの証みたいで、出発前の背中をやわらかく押してくれた。

 

飛行機は定刻どおり福岡に着いた。昼は取引先を回り、夜になってもメールのバッジは減らない。ホテルのベッドの上に携帯を放り、ふと思いついたように検索窓に指を滑らせた。

 

——気晴らし。

旅先の夜に、妻と娘にひとつだけ軽い嘘をつく。

 

______

 

見つけた店は、博多駅から少し歩いた雑居ビルの一室にあった。レビューには“落ち着いた雰囲気”“健全寄り”とある。むしろ、今のわたしにはそれくらいがちょうどいい。

 

ドアをノックすると、中から小さな足音。

 

「はぁい、どうぞ。」

 

出迎えた彼女は、ふわりとした淡いベビードールの上にカーディガンを羽織っていた。装いはきちんと節度があって、どこか家庭的ですらある。

「はじめまして。ハルカって言います。暑かったやろ?冷たいお茶、どうぞ」

 

語尾にやわらかい福岡の調子が混じる。

冷えたお茶が喉を通ると、少し肩の力が抜けた。

 

カルテに目を通しながら、彼女は何気ないことをぽつぽつ話した。

 

「うちはこっち生まれで、前は普通のエステやってたんですけどね。まぁ、いろいろあって……今はここ一本。気負わんで働けるけん、合っとるかなって」

 

「東京って、やっぱ忙しかと?」

 

「うん、まぁ。人も仕事も、流れが速い」

 

「ふふ。それ、わかる気がする。ここは、時間がちょっとゆっくり流れとるけん」

 

______

 

シャワーから戻ると、部屋の灯りが少し落とされていた。

ハルカは淡い色のベビードール姿で立座っていた。

生地は肩から落ちそうに薄く、動くたび胸のあたりがかすかに揺れる。

 

 

 

 

「じゃ、まずはうつ伏せになってくださいね」

 

ベッドに伏せると、オイルを垂らす小さな音がして、彼女の手が背中に置かれた。

じわりと体温が広がり、首筋まで緊張がほどけていく。

 

「肩、かなり張っとるね。力抜いて、ふーって」

 

言われた通りに息を吐くと、指先が肩甲骨の際をゆっくりなぞった。

オイルのぬめりと、指の節の硬さが心地よい。

 

 

「東京のひとは、やっぱ忙しいとやろ?」

 

「うん、気づいたらずっと走ってる感じ」

 

「ふふ。たまには立ち止まってよかとよ。ここやったら、ゆっくりできるけん」

 

会話は途切れ途切れ、でも不思議と途切れない。仕事のこと、娘の話、髪の話。

 

「髪、きれいやね。地毛と?」

 

「うん。じいちゃんがアメリカ人で」

 

「へぇ……それで、光ったら色が透けるんや。なんか、いいね」

 

彼女の笑い声は、アロマよりもあたたかかった。

 

背中から腰、太ももまで流れる手のひらが、徐々に境界を曖昧にしていく。

カエル足の体勢をお願いされ、言われるままに足を開く。

 

太ももの内側に彼女の指がかかると、血が一気にそこへ集まる。

 

「力入っとる。恥ずかしかと?」

 

「……少し」

 

「ふふ、かわいいね。ほら、ここもほぐすけん」

 

指先が内ももをゆっくりと上に滑る。

紙パンツ越しに触れるか触れないかのラインを、何度も往復する。

呼吸が浅くなるのを自分でも感じる。

 

「大丈夫?きつかったら言ってね」

 

「……いや、気持ちいい」    

 

「よかったぁ。そう言われたら、もっとがんばりたくなるけん」

 

やがて四つん這いを指示される。

体を起こすと、ハルカが後ろに回り、腰のあたりを支えるように手を置いた。

背中に彼女の胸がかすかに触れ、体温がじかに伝わってくる。

 

 

最後に仰向け。

ベビードールの裾が視界の端で揺れ、呼吸のたびに彼女の胸が小さく上下する。

「目、合うと緊張するね」

 

「俺も」

 

「ふふ。じゃあ、もうちょっとだけリラックスさせちゃるね♡」

 

胸から下腹部へとゆっくり滑る手。

紙パンツの上をなぞると、指先がそこで止まった。

視線が合ったまま、どちらも何も言わない。

空気が、音を立てずに変わっていく。

 

「どう?………リラックスしてきた?」

微かに微笑みながら、指先で紙パンツを握ってくる。

 

「うん…だいぶ…」

 

「ほんと?……なんか、かた〜くなっとるけど♡」

 

やがて紙パンツの隙間から指先が入り込んでくる。

 

中でかたくなったソレに触れる。

 

「あったかい。しかも先っちょが湿ってるよ?」

 

グヂュ…

 

滑らかにゆっくりとソレをしごいてくる。

 

急に過激になってきた施術。

 

ここって、健全店だよな…

 

気がつけばわたしのソレは完全に紙パンツから解放されていた。

 

「普段はこんなことしないけど、今日は特別。」

 

「おっきいよね。」

 

「なにが?」

 

「ふふ。それ聞く?」

 

 

下半身の上に跨り、覆い被さってきた彼女の唇が重なる。

 

「ほんとに内緒だからね」

 

我慢できなくなったわたしは、彼女を抱き寄せもう一度口付けをする。

 

ここまできたら止まらない。

 

ベビードールを捲り上げて、彼女のやわらかくて豊満な胸を揉む。

「あっ…やさしく…」

 

妻とも久しくしていないので加減もわからなくなっていた。

 

「こう…」

 

彼女に優しくリードされて胸を下から揉み、そのまま先端もいじる。

 

「あ…そう、上手…」

 

久しぶりの行為に血走っていたんだと思う。

気がつけばむしゃぼりつくように胸を舐めまわし、唾液まみれにしていた。

 

「あんっ…はげしい…」

 

 

喘ぐ彼女の声がワントーン上がる。

 

今度は彼女が私のからだを舐めてくる。

わたしのそれとは違い、丁寧で繊細な動き。

 

「きもち?」

 

この舌技で気持ち良くないわけがない。

 

やがて下腹部に達した舌は、そそり立ったソレの根本を舐める。

 

そのまま舌先が登っていき、パクッと咥え込む。

 

「ん〜…ほっきい…」

 

ジュボ…ジュボ…

 

上下に顔が動くたびに強烈な刺激が全身を包み込む。

 

んぐっ…

 

このままでは放出が近そうだ…

 

「いいよ。」

 

でもどうしてもこのまま我慢できなくなったわたしは、彼女にもっと……したいとお願いしてみる。

 

「えっ………」

 

「あ、ごめんやっぱりダメだよね」

 

「………持って……ます?」

 

さすがにこんなところにアレをもってくるわけもなく…

 

「いや…ない…」

 

「……絶対外に出してくださいね。」

 

「え!?いいの?」

 

「ほんとに絶対約束してくださいよ。」

 

少し不安げな表情ではあったが、わたしが約束する。と念を押すと承諾してくれた。

 

 

 

下着を脱ぎ、股を広げ、さっきまで咥え込んでいたソレの上にゆっくりと腰を落とす彼女。

 

グッヂュ…

 

卑猥な音と共に、彼女の中へ吸い込まれてく。

 

「あっ…おっきぃ…」

 

見ようによっては苦悶とも言えるような、表情に歪んでいく。

 

…んぐっ。

 

入り切った…。

 

 

両足でしっかりわたしの身体を挟みながら、腰を上下に動かす彼女。

 

パン…パン…

 

動くたびに彼女のナカが締め付けてくる。

 

先ほどまでとは比べ物にならない強烈すぎる刺激が全身どころか脳内全てを汚染してくる。

 

 

「あっ…はっん…」

 

身体を後ろに反らせるようにして、激しく腰を打ちつけてくる。

 

くっ…。

 

負けてられない。

今度は彼女を四つん這いにして後ろからゆっくりと重なる。

 

相変わらず脳がおかしくなりそうなくらい締め付けてくる。

 

パン…パン…

 

「あっ…ん…はっ…」

 

突くたびに揺れる尻肉と甘い声が刺激に拍車をかける。

 

 

んぐっ…。

 

もう流石に限界だ。このままでは……

 

 

 

 

彼女を仰向けにすると口付けをしながら上から重なった。

そして再びナカに入り込んでいく。

 

グヂュ…

 

潤滑油が先ほどまでより遥かに満ち溢れている。

 

パン…パン…

 

突いた。

激しく突いた。

 

もう頭がおかしくなってもいい、限界まで突く。

「あっっ……きもち…」

 

 

歪んだ顔もぼんやりしてきた。

 

「いいよ…外に…出してね。」

 

彼女の声が遠くなる。止めるべきだ、と頭ではわかっていたのに、体はもう言うことを聞かなかった。

鼓動の音だけが耳の内側で大きくなる。

視線が合った瞬間、ハルカはわずかに目を見開いたが、すぐに目を閉じて背に腕を回した。

 

——もう、止まれない。

 

強く、深く。

気がつけば奥で果ててしまっていた。

 

「はっん……あっ…えっ!……ちょ、ちょっと…ねぇ!…」

 

彼女のナカから溢れる白い液体が現実を突きつける。

 

「ご、ごめん! 俺……ほんとごめん!」

頭を下げるしかできなかった。

 

「……もう、いいけん」

 

しばらくの沈黙のあと、ハルカはふっと笑った。

「……ま、流せば大丈夫やけん」

 

微笑む彼女がやさしくいった。

 

「……ごめん」

小さくつぶやくことしかできなかった。

 

 

「もうよかよ。だって了承したのはわたしやけん、責任とってなんていわんから安心してな。それに今日安全日やし。」

完全に元の笑顔にもどった彼女。

 

「でも…」

 

「もう、ほんとによかよ〜。先にシャワー行くね。」

 

___

 

帰り際も彼女は笑顔だった。

 

「今日はありがと〜。でもほんと、誰にも言わんでね?」

「もちろん」

 

ドアが閉まる直前、彼女は付け足すみたいに言った。

 

「また…仕事でこっち来たら…会いにきてよかよ♡」

 

その夜、ホテルの窓に街の灯りが遠く散った。メールの赤いバッジは、気づけばどうでもよくなっていた。

 

 

***

 

時間は、不在のふりをして前へ進む。

あの日から、二年が過ぎた。娘は六歳になり、ランドセルの色を真剣に迷っている。春の連休、家族三人で福岡へ旅行することになった。妻は「太宰府と梅ヶ枝餅」と言って、娘は「イチゴ♩」とはしゃいだ。

空港から地下鉄。ホテルに荷物を置き、博多駅のデッキへ上がる。日曜の午後、風は軽く、陽ざしに少しだけ初夏の匂いが混じっている。

 

「パパ、トイレ行ってくるね」

妻と娘は駅ナカのパン屋に吸い寄せられていく。私は自販機で水を買い、ふたりの姿を目で追いながら、少し離れたコンビニに寄った。

戻ってくる途中、妻と娘がベビーカーの女性と話しているのが見えた。

近づくほどに、胸の鼓動がひとつずつ増える。理屈は何ひとつないのに、体だけが真っ先に思い出していく。

 

「かわいいお子さんですね。おいくつですか?」

妻の声。

「二歳になったばっかりです。よう歩きたがるけん、ベビーカーは荷物置きになっとります」

やわらかい口調。

 

娘がベビーカーを覗き込んで、「ねぇ、髪の色がいっしょ」と嬉しそうに言った。

陽に透けた細い髪は、ミルクティーのような淡さで、瞳は真っ直ぐに光を返す。笑った口元が、どこか既視感を連れてくる。

妻が続ける。

「すごくきれいな色ですね。パパが外国の方?」

女性は、一拍置いて微笑んだ。

 

「いえ、パパは多分……クォーターなんです」

 

「あ、そうなんですね。…多分?」

 

「……あ、うちシングルなんです。」

 

その言い方は軽かった。風に乗せるみたいに、余計な湿り気を含まない。

 

私は立ち止まり、視線の置き場をなくした。

そのとき、彼女がふと顔を上げる。

目が合う。二年ぶりの、ほんの一秒。

 

——ハルカだ——

 

ハッと、少しだけ驚いた表情になったが、すぐにあの夜と同じ柔らかい笑みになった。

 

「……あ、じゃあ、失礼しますね。」

 

妻に会釈をし、娘に笑いかけ、私には——言葉の代わりに、ごく小さな会釈をひとつ。

彼女はベビーカーの取っ手を押し、流れに溶ける歩幅で人混みに消えていく。

振り返らない。

いや…振り返らせない歩き方だった…。

 

 

妻がこちらに手を振る。

「あ、ねぇ、パン買えたよー。ほら、この子の好きなやつ」

娘は跳ねるように走ってきて、私の手に小さな袋を押しつけた。

「パパ、これいっしょに食べよ。——ねぇさっきの子ねぇ、かわいかったんだよ。髪が茶色で、ちょっとわたしに似てた。」

 

「……そうなんだ。」

 

デッキの上の生暖かい風が、三人の髪をまとめて撫でた。

近くのベンチに座り、紙コップのコーヒーに口をつける。

苦味はいつもと同じはずなのに、舌の奥で別の記憶が目を覚ます。

陽の色、薄い布の感触、耳のすぐそばの呼吸。

そして、あの小さな声。

 

——ま、流せば大丈夫やけん。

 

私はパンの袋を開けながら、さっきのベビーカーの中で笑っていた瞳を思い出す。

茶色い髪が光を受けて透ける様子は、隣でパンを頬張る娘の笑顔と重なって見えた。

 

ひと月十日……

いや、計算はしない。しないけれど、指は勝手に数えようとする。

一、二——。

 

 

人の流れは絶え間なく、風はどこからともなくやってきて、どこへともなく去っていく。

 

——流せば大丈夫やけん。

 

 

 

まさかな——。

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