第1部 再会と揺らぎの始まり

第1部 再会と揺らぎの始まり
未希は朝の六時半、ベッドの中でゆっくりと目を覚ました。 隣で寝息を立てる卓男の背中をそっと見つめ、争いを避けたいという自分の性格を改めて思い知る。音を立てないよう慎重にシーツをめくり、細身の体を起こす。豊かな胸が重く揺れ、乳首が空気に触れてびんっと硬くなる。未希は無意識に腕で胸を隠すように体を丸め、バスルームへ向かった。
鏡の前で制服に着替えながら、未希は小さくため息をつく。 ──いつもと同じ朝。いつもと同じ笑顔。患者さんたちに「優しい未希さん」と言われるのは、この穏やかな仮面のおかげだ。でも、内側ではいつも小さなため息が漏れる。争いたくない。波風を立てたくない。だから、いつも笑顔で、耐える。それが自分の生き方だと思っていた。

結婚して5年。卓男は38歳、営業職の課長補佐。出会った頃は本当に優しかった。30代前半で「もう結婚したい」と焦っていた未希に、「安心して俺に任せろ」と穏やかに言ってくれた。あの言葉にすがるようにしてプロポーズを受け、「好きになれるはず」と自分に言い聞かせて結婚した。恋愛感情は薄かったけれど、安定と安心が欲しかった。争いが苦手で内気な未希にとって、卓男は「守ってくれる人」に見えた。
けれど、結婚して半年ほど経つ頃から、少しずつ変わっていった。最初は小さな棘のある言葉。「お前、今日も化粧濃いな。誰に見せたいんだ?」そんな一言が、次第に「俺の妻なんだから、他の男に笑顔見せるなよ」と監視めいたものに変わっていった。スマホを勝手にチェックされることも増え、夜の営みは完全に卓男のペース。未希の気持ちなどお構いなしに、ただ自分の欲を満たすだけだった。
未希は制服のボタンを留めながら、鏡の中の自分を見つめる。 ──結婚前の私は、もっと明るかった。友達とカフェで笑い合って、休日は自由に過ごして……。今は、すべてが義務みたい。安心のための結婚だったはずなのに、なぜこんなに息苦しいの?
病院へ向かう道中、12月の冷たい風が頰を刺す。未希はコートの襟を立てながら、今日の業務を思い浮かべる。患者さんの予約確認、受付での対応、同僚との軽い挨拶。いつも通り、穏やかな笑顔を保つ。それが未希の日常だ。
病院に着き、受付カウンターに座る。朝の混雑が始まり、高齢の患者さんが「未希さん、今日も元気?」と声をかけてくれる。未希は笑顔で「はい、おかげさまで」と返す。患者さんたちの笑顔が、少しだけ救いになる。 ──ここにいるときだけ、心が少し軽くなる。患者さんたちの優しさが、私の仮面を支えてくれる。

午前の業務を終え、休憩時間に病院近くのカフェへ入った。ホットコーヒーを注文し、窓際の席に座ってぼんやりと外を眺めていると、聞き覚えのある声がした。
「──未希?」
振り返ると、そこに立っていたのは高校時代の同級生、晃だった。
「え……晃くん……?」
未希は言葉に詰まる。晃は少し照れくさそうに頭を掻き、「久しぶりだね。覚えててくれたんだ?」と穏やかに言った。
高校時代より少し大人びた顔立ち。髪は短く整えられ、シンプルなニットにジーンズという装い。肩幅が広がり、男らしくなっている。でも、目はあの頃と変わらず優しい。未希は一瞬、言葉を失う。まさかこんなところで再会するなんて。 ──なぜ今、晃くんの顔を見て、心が少し軽くなるの? 懐かしいだけのはずなのに。
「ここ、座っていいかな?」
晃が尋ね、未希は頷いた。最初はぎこちない沈黙が続く。未希は内気ゆえ、会話を始めるのが苦手だ。晃が先に口を開いた。
「久しぶりだね。病院で働いてるんだっけ? 前に同窓会の話で聞いた気がするよ」
「うん、そう。受付やってるの。あなたは?」
未希の声は少し固い。晃は自然に答える。「俺は家具作ってるよ。小さな工房持ってて、手仕事がメインさ。木の匂いが好きでね」
会話はゆっくりと進む。高校時代の思い出──美術部の展覧会のこと、クラスメイトのエピソード。晃は静かに話すタイプで、未希の言葉を遮らずに聞いてくれる。未希は少しずつ緊張が解け、笑顔が自然になる。 ──晃くんの声、穏やかで……心が落ち着く。卓男さんの棘のある言葉とは全然違う。
「結婚したんだっけ? 幸せそうでよかったよ」
晃の言葉に、未希は少し胸が痛む。「うん、営業の仕事してる人と。普通に暮らしてるよ」
──普通じゃないのに、なぜ本音を言えないの? 笑顔で誤魔化す自分が、嫌になる。
晃は「俺はまだ独身さ。仕事に没頭してるよ」と軽く笑う。未希は「いい仕事だね」と返す。晃の目が優しいことに気づき、心が少しざわつく。でも、それはただの懐かしさだ、と自分に言い聞かせる。 ──懐かしいだけ。特別な感情などないはず。

別れ際、晃が言った。
「また連絡してもいいかな? 連絡先、教えてくれない?」
未希は一瞬迷った。卓男に見られたら、きっと疑われる。でも、ただの同級生だ。断る理由もない。
「うん、いいよ」
スマホを出し、LINEを交換する。晃は「じゃあ、また何かあったら」と軽く手を振って去っていった。未希はコーヒーの残りを飲み干し、カフェを出る。胸に小さな波紋が残ったが、それ以上深く考えないようにした。 ──ただの再会。懐かしい友人。それだけなのに、なぜ心が少し軽くなったの?
その夜、家に帰ると卓男はまだ帰っていなかった。未希は夕食の支度をしながら、スマホに届いた晃からのメッセージを見た。
『今日は突然でびっくりしたけど、会えてよかった。また何か話したいことあったら連絡して』
シンプルな一文。未希は返事を打つのに少し時間をかけた。どう返せばいいか、熟考する。ただの同級生なのに、なぜか言葉を選んでしまう。
『こちらこそ、懐かしくて嬉しかった。仕事頑張ってね』
送信ボタンを押した瞬間、胸が少し重くなる。罪悪感ではない。ただ、日常に小さな変化が起きただけだ。 ──晃くんのメッセージ、優しくて……心が温まる。卓男さんの言葉はいつも棘があるのに。
卓男が帰宅したのは九時過ぎ。少し酒の匂いがした。
「お前、今日なんか変だぞ。誰と会ってた?」
いきなりの質問に未希はびくりとする。どうしてわかるのだろう。
「え……誰も……仕事だけだよ」
「嘘だろ。なんか目が違う気がする」
卓男は未希のスマホを手に取り、ロックを解除しようとする。未希は慌てて「患者さんと少し長く話しただけ」と誤魔化した。卓男は疑わしげに未希を見たが、それ以上追及はしなかった。でも、心の中では「もし晃くんのメッセージを見られたら……」と不安がよぎる。ただの同級生なのに、なぜこんなに気になるのだろう。
夕食を済ませ、リビングでテレビを見ていると、卓男がまた未希を引き寄せた。今夜も同じパターンだ。ソファに押し倒され、スカートをまくり上げられる。
未希は抵抗せず、受け入れる。卓男の手が胸を乱暴に揉み、乳首を強くつまむ。未希の体は反応するが、心はどこか離れている。 ──体は熱くなるのに、心は冷たい。晃くんの優しい目を思い浮かべてしまう自分が、怖い。

卓男は未希を四つん這いにさせ、バックから挿入。激しく腰を振り、ぱんぱんっと音を立てる。未希は演技で喘ぎを漏らすが、心では晃の穏やかな笑顔を思い浮かべる。 ──晃くんだったら、優しく触れてくれるのに……。なぜ、こんなに違うの?

卓男は外射精で未希の背中と尻に精液をぶちまけ、事後フェラを強要する。未希は従順に舐め取り、味と匂いに耐える。 ──こんなことまでさせられて、心が砕けそう。でも、逆らえない自分が嫌。


ベッドに入ってからも、未希はなかなか眠れなかった。暗闇の中で、晃の顔が何度も浮かぶ。あの優しい目。高校時代の静かな存在。でも、好意などない。夫がいる身で、そんなことを思うのはおかしい。 ──懐かしいだけ。それ以上じゃない。でも、心が少し揺らいでいるのは、確かだ。
翌日から、晃とのメッセージのやりとりが始まった。最初は軽い近況報告。「今日の仕事はどう?」という晃の問いに、「忙しかったよ」と返す。晃はいつも未希のペースに合わせてくれる。無理に聞き出したりせず、ただ優しく返事をくれる。未希は心の中で「ただの友人」と言い聞かせる。でも、卓男の視線が気になり、スマホを隠すようになる。
そんなある日、晃から提案があった。
『よかったら、俺の工房に来ない? 家具の相談でもいいし、ただお茶するだけでも』
未希の心が揺れた。行くべきではない。でも、好奇心が少しある。安心のための結婚を選んだはずなのに、今、心に小さな隙間ができている気がした。返事を打つ指が震えた。
『考えてみるね』
明確に好意を示さない。まだ、ただの同級生として。
