その町には、感情を預かる忘れ物センターがある。未練、性欲、衝動…
「本日は、何をお預けになりますか」
受付の職員は、淡々と聞いた。
彼は一瞬、口を開きかけて、閉じた。
そして、視線を落とした。
「……言えません」
職員は少しだけ、うなずいた。
「大丈夫です。忘れたい感情をイメージしながらこちらに指を触れてください。」
差し出された機械の画面に、指を置く。
じんわりと、温度が返ってくる。
「はい。確かにお預かりしました」
職員側の機械の画面には、預かり物が表示される。
「氏名:加藤俊
預かり物:木戸彩香に対する未練、強烈な性欲」

ーー彩香は大学一年生からのサークルの友人だ。俊はずっと彩香のことが、大好きだった。だが、彩香にも俊にも、高校時代からの彼氏彼女がいた。
社会人2年目になった今、俊は高校時代からの彼女にプロポーズをする予定だ。彼女のことは本当に大好きだ。ただ、俊の頭の片隅にはいつも彩香がいた。彼女と同棲する今もなお、夜に思い出すのは彩香の豊満な身体。そんな自分に嫌気がさしてここに来たのだったーー。
俊の喉が鳴った。
「預かってもらえる期限はあるんですか?」
「期限はありません、返却は貴方が希望した時のみ、できます。」
職員は事務的に続ける。
「ただし、一度返却した後、再度お預かりすることはできません」
俊は了解した。何を預けたのか、もう思い出せないが、気持ちが軽くなったような気がした。
その夜、彩香から連絡が来た。
「宏からプロポーズする予定って聞いたよ。うまく行くと良いね!久しぶりに少し、飲まない?プロポーズの方法、アドバイスに乗るよ〜」
「おお、ありがとう!18時に居酒屋えん予約しとくわ!」
居酒屋では、プロポーズの作戦ををひとしきり練った後に、昔の話で盛り上がった。俊は彩香と話していると、「男女の友情は成立しないというのは嘘だよな」と、いつも感じる。
酒が、進む。

「2次会、いつも通り、うちで飲み直そっか」
彩香にそう言われた瞬間、胸の奥の空洞がざわついた気がしたが、断る理由もないので、いつも通り、すぐ近くの彩香のマンションに向かった。
彩香の部屋に入ると、いつもはない機械がそこにあった。
忘れ物センターにある、あの機械だ。

「どうして、それを?」
俊が聞くと、彩香がすぐに答える。
「私ね、実は今、忘れ物センターの職員なの」
「あなたが預けていったもの、見ちゃったの。これはね、私とあなたの大切な思い出だった。彼女にプロポーズする前の私の一生に一度のお願い。これは、返却して欲しいの。」
俊は息を止めて考えた。こんなに神妙な彩香の顔を見たのは初めてだ。
「……わかったよ、そこまで言うのなら。」
指を機械に当てる。記憶が戻る。
俊の体温が、瞬時に上がる。
「……戻ってきたでしょ」
顔を近づけてきた彩香が耳元で妖艶に囁く。

その瞬間、
俊は自分の理性が、音もなく崩れるのを感じた。返却された未練と性欲が、熱い奔流のように体中を駆け巡り、下腹部に集中する。彩香の吐息が耳朶をくすぐり、甘い体臭が鼻腔を満たす。俊の股間は痛いほどに硬く張りつめていた。
彩香は俊の手を握り、自分の胸に引き寄せる。柔らかな膨らみが掌に沈み込み、薄いカーディガン越しに感じる熱さが、俊の指先を震わせる。
「どうしてこんなことを。。?」
俊の声は掠れ、抵抗の言葉とは裏腹に、指が自然とその曲線をなぞり始める。彩香の瞳が潤み、唇がわずかに開く。
「私もずっと好きだったからに決まってるじゃん。私は俊への思いを預けずに生きていくって決めていたのに。俊だけ忘れるなんて許さないから。」
彼女の言葉が終わらぬうちに、彩香の唇が俊の口を塞ぐ。柔らかく湿った舌が侵入し、俊の舌を絡め取る。甘酸っぱいワインの残り香が混じり、互いの唾液が糸を引くように交わる。

俊は思わず彩香の腰を抱き寄せ、彼女の尻の丸みを強く握りしめる。彩香の体がびくりと震え、低い喘ぎが漏れる。「あっ…俊…」
服が、意味のない順番で床に落ちていく。まず彩香のカーディガンが剥ぎ取られ、露わになった白い肌が部屋の薄明かりに輝き、俊の視線を釘付けにする。次に俊のシャツが引き裂かれるように脱がされ、彩香の細い指が彼の胸板を這う。爪が軽く肌を引っ掻き、ぞわぞわとした快感が背筋を駆け上がる。

彩香は俊をベッドに押し倒し、跨がるように腰を下ろす。彼女の太ももが俊の腰を挟み、熱い秘部が彼の硬くなったものを布越しに押しつける。ゆっくりと腰を揺らし、摩擦を生むたび、彩香の息が乱れる。「俊のここ、こんなに熱くて硬い…ずっと想像してたの…」彼女の声は甘くねばつく。俊は耐えきれず、豊満な胸に手を伸ばすと、ピンク色の突起が硬く尖っている。俊の口がそれに吸い付き、舌で転がす。彩香の体が弓なりに反り、「んっ…あぁ…もっと、強く…」と喘ぐ声が部屋に響く。
2人の姿勢が何度も変わる。
彩香が上になり、俊のものを自らの濡れた入り口に導く。ぬるぬるとした感触が俊を包み込み、彼女の内壁が収縮しながら彼を飲み込む。ゆっくり沈み込み、根元まで繋がった瞬間、彩香の腰が激しく動き始める。俊は下から突き上げ、彼女の胸を揉みしだく。汗が飛び散り、肌が肌に吸い付く音が淫らに響く。「彩香…彩香っ…」俊の呼びかけに、彩香が応じる。「俊…もっと深く…壊れるくらい…」
今度は俊が上になり、彩香の脚を大きく広げて深く貫く。彼女の爪が俊の背中に食い込み、赤い痕を残す。リズムが速まり、互いの息が荒く混じり合う。彩香の体が痙攣し始め、内側が俊を強く締めつける。「イく…俊、一緒に…」絶頂の波が訪れ、2人は同時に頂点に達する。熱い液体が溢れ、彩香の体がびくびくと震える。
その後もお互いの名前を一晩中呼び合い、休む間もなく何度も求め合う。汗と体液にまみれ、理性などとうに溶け去っていた。
もう、もとには、戻れない。
翌朝、俊の携帯にメッセージが届く。
《預かり物を返却いたしました。再預かりはできないこと、ご了承ください。》
