不聴の檻

深夜の介護福祉施設の機能訓練室は、静まり返っていた。
新任の理学療法士である私、結衣(ゆい)がここで働き始めて三ヶ月。
今日の夜勤居残りサポートは、事故による脳の損傷で言葉を発することができず、車椅子生活を余儀なくされている24歳の青年、拓海(たくみ)さんだった。
普段は幼児のように純粋で、私の指示にいつも穏やかな笑顔で従う、手のかからない患者。
彼が最近、リハビリの最中に妙に私の胸元を凝視したり、すれ違いざまに腰に触れてきたりする行動が目立っていたため、私は今日、二人きりの空間で「適切な距離感」についてのルールを教えるつもりだった。
ベッドに腰掛け、虚ろな目で宙を見つめている拓海さんに、私は優しく語りかける。
拓海さん、私の目を見て。いくらリハビリでも、触っていい場所と悪い場所があるの。
私はジェスチャーを交えながら、自分の胸や太ももを指差して、ここは触っちゃいけない場所だと教えようとした。
しかし、その行為自体が、彼の獣のような本能を刺激してしまったことに私は気づいていなかった。
拓海さんは突然、私の動きを遮るようにして、私の両手首を片手で掴み上げたのだ。
え、ちょっと、拓海さん……?
驚いて声をあげるが、彼は車椅子から音もなく立ち上がった。
足が不自由なはずの彼の筋力は、私の想像を遥かに超えていた。
衰えていると思っていた彼の腕は驚くほど硬く、万力のように私の手首を締め上げる。
そのまま施術用ベッドに押し倒され、私はシーツの上にくぎ付けにされた。
ダメ、放して……!
必死に叫び、抵抗するが、彼は無表情のまま、まるで壊れた玩具のネジを回すかのような冷徹さで、私の医療用ユニフォームのボタンを上から順に引きちぎっていった。
パチパチとプラスチックが弾け飛ぶ音が不気味に響く。
私のインナーが乱暴に左右に引き裂かれ、下着が露わになった。
拓海さんの目は、普段の無垢な輝きを完全に失い、ただ純粋な欲情だけで濁っている。
理性が通じないという恐怖が、私の全身を硬直させた。
彼は私の悲鳴など一切聞こえないかのように、大振りの手のひらで私の胸を鷲掴みにし、信じられない力で揉みしだいた。
痛い、痛いよ拓海さん……!
涙が溢れるが、彼は私の顔を一瞥することもなく、今度は私のチノパンのベルトを強引に外し、一気に膝まで引き落とした。
ショーツが爪でバリバリと裂かれ、太ももの内側に彼の生暖かい指が食い込む。
いや、やめて、お願い……!
懇願する私の口を塞ぐように、彼は自分の汚れた手のひらを私の顔に押し当ててきた。
息が詰まる。
その隙に、彼の手は私のショーツのクロッチを引き裂き、まだ何の準備もできていない、乾いた私の秘部へと容赦なく指を突き立てた。
あ、う、あ、あああ……ッ!
激痛に身体がのけぞる。
彼は愛撫などという生ぬるいことはせず、ただ執拗に、暴力的な速度で指を抜き差しし、私の内側を破壊するように蹂躙していく。
悔しいことに、激しい摩擦は私の脳の防衛本能を狂わせ、恐怖とは裏腹に、そこからじんわりと淫らな蜜を溢れ出させてしまった。
指が濡れ、クチュクチュと部屋に響く卑猥な水音が、私の羞恥心をなぶり殺しにする。
痛みのあまりに気絶しそうになる私を、彼はさらに追い詰める。
ズボンのジッパーを下ろす金属音が聞こえ、彼の猛々しく熱り立った、信じられないほど凶暴な質量が、蜜に濡れた私の太ももの間に押し当てられた。
嘘、嘘でしょ、拓海さん、やめて、私はあなたの担当療法士なのよ……!
届かぬ叫びを嘲笑うかのように、彼は私の両脚を限界まで左右に開き、その全体重をかけて、私の中に一気に入ってきた。
あ、が、あああああああ――ッ!
裂傷のような激痛が走り、私は声を失った。
内側の壁が強引に押し広げられ、彼の容赦のない突き上げが始まる。
それは交わりというより、一方的な陵辱であり、肉の破壊だった。
彼が腰を打ち付けるたびに、頭がベッドのフレームに叩きつけられ、視界がチカチカと明滅する。
言葉を持たないはずの彼は、あえぎ声すら上げない。
ただ、ハァ、ハァという荒い鼻息だけが、私の耳元で執拗に響き続ける。
その静寂の凌辱が、かえって私の精神を狂わせそうだった。
何より絶望的だったのは、私の肉体が、彼の若く容赦のないピストンに無理やり開発され、激痛の奥から強烈な快感を拾い集め始めてしまったことだ。
「ひゃあ、あ、そこ、だめ、あ、いく、いっちゃううう!」
頭では拒絶しているのに、背中を反らせて彼にしがみつき、何度も潮を吹いて絶頂に達してしまう自分の身体が恐しかった。
動くたびに、私から流れた鮮血と、溢れ出た愛液が混ざり合い、深夜の訓練室に虚しく響く。
拓海さんは私が絶頂を迎える瞬間、まるで見せつけるように、私の目の前でスマートフォンを構えていた。
レンズは、快感に顔を歪めてあえぎずにはいられない私の表情と、結合部を執拗に捉えている。
私はもう抵抗する気力も失い、ただ天井の蛍光灯を見つめていた。
拓海さんの動きがさらに激しくなり、私の身体が何度も跳ね上がる。
やがて、彼は私の奥深く、子宮の入り口を激しく突き刺したまま動きを止め、内側に熱い液体を何度も、何度も吐き出した。
ドクドクと注ぎ込まれる異物の生暖かさに、私は吐き気と絶望で涙を流すことしかできなかった。
すべてを終えた拓海さんは、何事もなかったかのように私の上から退き、ズボンを直した。
そして、ベッドの横に置いてあった私のスマートフォンを拾い上げると、それを私の顔の前に突きつけた。
そこには、録画状態になったままの画面があった。
撮影されていたのは、私が彼をベッドに誘い込み、自ら服を脱いで彼を求めているかのように錯覚させる、悪意に満ちたアングルの映像だった。
え……?
私は目を見開いた。

拓海さんは、私のスマートフォンを操作し、録画を停止すると、慣れた手つきであるアプリを開いた。
彼は驚くほど滑らかな動作で、私に画面を見せてきた。
そこに表示されていたのは、メッセージアプリの画面。
そして、言葉が不自由で、知能も低下しているはずの彼の指が、キーボードを高速で叩いていく。
画面に文字が打ち出されていくのを、私は震えながら見つめた。
『結衣先生、ごちそうさまでした。動画、しっかり撮れましたね。あなたが職務権限を利用して僕を深夜の訓練室に呼び出し、身体を押し付けながら無理やり誘惑し、襲わせたという完璧な証拠の完成です。僕が障害のせいで抵抗できずに怯えているようにしか見えないでしょ?』
……え?
私の頭は、その文字の意味を理解することを拒絶した。
拓海さんは、スマートフォンの画面から目を離し、私を見下ろした。
その顔には、これまで見たこともない、狡猾で、冷酷な、大人の男の笑みが浮かんでいた。
彼は、ゆっくりと口元を動かした。
声は出さなかったが、その完璧な唇の動きは、私にはっきりと伝わった。
――僕、脳の障害なんて最初からないんですよ。大富豪の親の遺産を狙う親族から隠れるために、ここで患者のフリをしてただけ。
彼は私のスマートフォンを自分のポケットにしまい込むと、完璧な、力強い足取りで訓練室のドアへと向かった。
ドアを開ける直前、彼は振り返り、今度は音声として、低く澄んだ綺麗な声で、私に告げた。
「明日から、僕の言うことを何でも聞いてくださいね。従わなければ、この動画、あなたの勤務先とネットに流しますから。職を失うだけじゃ済まないですよ」
パタン、と静かにドアが閉まった。
闇が迫る施設の中で、私は衣服を剥ぎ取られ、下半身を血と蜜で汚されたまま、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
私が憐れみ、守ろうとしていた社会的弱者は、最初から私を狩るために罠を張っていた、完璧な捕食者だったのだ。
