竜の物語②「登竜門」


彼の名は――竜(りゅう)。
昼は、大手企業に勤めるエリートサラリーマンだ。革靴を鳴らしてオフィスを歩き、淡々と業務をこなす。
家に帰ればエプロンをつけ、子どもに「パパ、肩車して!」とせがまれる一家の大黒柱である。
だが夜の竜は違う。
革靴を脱ぎスリッパに履き替え、財布から万札を唐揚げのレモンみたいに雑に絞り出す。
紙パンツ一丁でオイルの香りに包まれた覇者の顔になる。
そんな竜がこの夜選んだのは――
大手掲示板サイトに堂々と掲載されるリラクゼーションサロン、いわゆる健全店だ。

メンエス狂いの竜にとってここは“登竜門”となる。

「こんにちは」
受付に現れたのは、キャビンアテンダントを思わせる気品ある女性。
背筋の通った立ち姿に竜はニヤリと笑う。
――今日は、肩でも揉まれて真っ当に帰るか。
個室に案内され、シーツに横たわる。
置かれた備品に目をやると、丸められた白のバスタオル。やはり茶色でないと落ち着かない。
施術が始まると、彼女の技術は一流で、凝り固まった筋肉を丁寧に解していく。
竜は静かに目を閉じ、素朴な癒やしを受け止めていた。満足気にマッサージを受け、たまにはこれもいいなと思っていた。
……そんな矢先だった
腰に流れた彼女の手がふと止まり、KPの中へと滑り込む。そのまま当たり前のようにズラされる。
露わになった剛棒に彼女の指が触れる。
「……っ」
竜の呼吸がわずかに乱れる。戸惑いが隠せない。
竜ほどの漢であっても、背徳感に支配されたこの室内では雛同然なのだ。
彼女は剛棒を指先で優しく包み込み、やがて上下に滑らかに動き始める。
彼女の方を見る余裕もなく、ただこの快楽に集中していた。
しかしそう長くは持たず、彼女の指が亀頭を擦るたびに背筋を焼くような快感が走り、理性は決壊を迎える。
「……くっ」
シーツを握り締め、肩を震わせる竜。
抑え込んでいた衝動はついに爆ぜ、白い閃光となって彼女の服に弾け飛んだ。
静寂。
彼女は赤い頬でタオルを差し出し、小さく微笑む。
「……お疲れさまでした」
竜は深く息を吐き、ゆるりと笑みを浮かべた。
そのまま店を後にし、また夜の街へ…
竜はタバコに火を付けた。
「……再訪アリだな」
