ログイン 新規登録

種付士

和也の家は母子家庭だった。

 

狭いアパートに、年季の入った冷蔵庫。

冬は隙間風が吹き込み、夏は一台の扇風機が頼りだった。

 

決して恵まれた暮らしではない。

それでも母はいつも笑顔で、家の中には不思議と温かな空気が流れていた。

 

和也もまた、そんな母を誰よりも大切に思っていた。

 

高校生になると、「いつか必ず母を楽にしてあげたい」という一心で、人一倍努力を重ねた。

 

勉学では模試全国上位の常連。

スポーツでは全国優勝を果たしたサッカー部で得点王に輝く。

 

誰もが羨む才能を持ちながら、その力の源はいつも母への想いだった。

 

高校三年生になる頃には、国内はもちろん、世界中の名門大学から誘いが届いた。

 

誰もが口を揃えて言う。

 

 

――和也の未来は約束されている。

 

 

そう信じて疑う者はいなかった。

 

 

 

だが、その春だった。

 

母が倒れたのだ。

「ごめんね、和也」

 

病室でそう呟く母に、和也は静かに首を振った。

 

母のためなら、自分の夢など惜しくはない。

進学を諦め、働くことを決意した。

 

 

 

そんなある日のことだ。

 

就職先を探していた和也は、奇妙な広告を目にする。

 

『絶倫のそこのアナタ!

 種付士になってみませんか?』

「なんだこれ、意味わかんねぇ」

 

だが給料は異常なほど高かった。

 

高校生になってから、和也は絶倫に悩まされていた。

 

「……。」

「え?これがお金に?」

下半身に目を落とす。

 

 

半信半疑で応募してみる。

 

すると翌日には採用通知が届いた。

 

 

そこで初めて知る。

 

種付士とは国家が秘密裏に運営する少子化対策機関だった。

 

絶倫かつ優秀な遺伝子を持つ者だけが選ばれる特殊業種。

 

業務内容はシンプル。

種付依頼が入り、NNにてSEXをすることで種付けを行う、これだけだ。

 

生まれた子どもには能力検査が行われる。

 

知能、身体能力、精神力、創造力、適応力。

5つの項目が5段階で示され、その合計をタネスコアと呼ぶ。

 

そのスコアが成績となり、それに応じた等級が振られ、報酬が決定する。

 

 

 

早速依頼を受け、

和也は一心不乱に腰を振り、種付けを行った。

 

「あ、あぁ、んっ…兄ちゃん、上手やねぇ」

 

 

依頼人は必ずしも若いとは限らない。

 

それでも報酬のために我慢し、腰を振る。

 

和也のタネスコアは優秀で、平均スコア45以上という驚異的な数字を連発していた。

 

 

その結果、

 

和也は異例のスピードで昇格を重ねた。

 

3級から2級へ。

そして2級から、わずかな期間で1級へ。

 

「1級種付士」

 

世界でも数えるほどしか存在しない最高位であり、日本では和也が史上2人目の到達者だった。

 

当然、その才能を求める声は後を絶たない。

 

国内はもちろん、海外からも依頼が殺到した。

 

報酬は跳ね上がり、母の治療費に頭を悩ませることもなくなっていった。

 

だが、和也は自分のために金を使わなかった。

 

高級車にもブランド品にも興味はない。

 

母を助けたい。

 

その想いだけだった。

 

 

 

和也は1級種付士としてさらに努力を重ねた。

 

タネスコアは常に最高水準をキープし、1級種付士の中でも群を抜いていた。

 

全種付士を対象としたランキングでは、ついに世界2位にまで上り詰めていた。

 

だが――

 

和也の上には、常に一人の男がいた。

 

「X」

 

ランキング最上位に君臨し続ける謎の存在。

 

そして唯一の「特級種付士」だった。

 

種付士の階級は3級、2級、1級の三段階。

 

そのさらに上に存在するのが特級種付士である。

 

Xしか到達したことのない段位であり、

彼のタネスコアは平均50、満点だった。

 

和也は昔から何をやっても一番だった。

 

勉強もスポーツも、何もかも。

 

努力を重ねれば必ず結果が出た。

 

初めて刻まれた「敗北」の2文字。

和也の胸を静かに焼き続けていた。

 

 

 

そんなある日だった。

 

和也のもとへ、一通の通知が届く。

 

「特級認定試験への参加資格を付与します」

 

思わず目を疑った。

 

Xしか合格していない、最高位への挑戦権。

 

震える指で通知を読み進める。

 

そして最後の一文を見た瞬間、和也は息を呑んだ。

 

「試験官 X」

 

初めて背中を追わされた人物、

一度も姿を見たことのない伝説。

その男に、ついに会える。

 

母を助けるためだけに走り続けてきた和也だったが、この時ばかりは違った。

 

胸の奥から込み上げる感情。

 

――勝ちたい。

 

生まれて初めて超えられなかった相手に。

 

和也は通知を強く握り締めた。

 

 

試験当日。

 

会場は深い山奥にあった。

 

指定された部屋へ足を踏み入れた和也は、そこで初めてXと対面する。

逆光の中に座る男。

 

年齢は五十代半ばほどだろうか、

白髪の混じった髪、深く刻まれた皺。

 

だが、顔を見た瞬間。

 

和也の呼吸が止まった。

 

似ている。

 

目元も、顔立ちも、自分によく似ていた。

 

「久しぶりだな」

 

その声を聞いた瞬間、和也は悟る。

 

この男が、俺たち家族を捨てた父親なのだと。

 

「俺たちを捨てて、今さら何の用だ」

 

怒りが込み上げる。

 

 

だが父は静かに答えた。

 

「捨てたことを後悔しない日はなかった」

 

若き日の父も種付士だった。

 

金と名誉に目が眩み、仕事に全てを捧げた。

 

気付けば家族との時間は消え、妻も子も失っていた。

 

「特級になった時には、守りたかったものは何も残っていなかった」

 

そう言う父の顔は、どこか寂しそうだった。

 

「和也、お前の勝ちだ」

 

「いや、スコアで負けたのは俺だ」

 

「違う」

 

父はまっすぐ和也を見つめた。

 

「俺には能力しかなかった。だから家族という大切なものを失った」

 

そして続ける。

 

「お前には愛がある」

 

母を想い続けたこと。

 

どれだけ成功しても母を想う気持ちがあったこと。

 

それこそが特級に必要な最後の資質だった。

 

父は特級認定証を差し出した。

 

「未来を託す」

 

和也は黙ってそれを受け取った。

 

そして背を向ける。

 

「……母さんに、謝っておいてくれ」

 

それだけを残し、部屋を後にした。

 

静まり返った部屋で、和也は認定証を強く握り締めた。

 

 

 

数か月後ーー

 

「ママー!」

 

幼い子どもが母親に飛びつき、笑い合う

 

そんな光景が、日本中で少しずつ増え始めていた。

 

 

和也が残したものは、優秀な遺伝子だけではない。

 

人と人を繋ぐ、小さな愛情の種だった。

 

その種は今、確かに芽吹き始めている。

 

花開く日は、もうすぐそこかもしれない。

クリエイターのプロフィール
大阪在住のおっさんリーマンです。 メンエスときどき健全店開拓してます‼️ CFNM好きかもしれないと思う今日この頃。
この記事のURL
おすすめタグ