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クロッキーの午後

都内の美術大学二年生、ミサは、静まり返ったアトリエの片隅で鉛筆を握りしめていた。床は年季の入った木のフローリング、油絵具と木炭の混じった匂いが漂う。午後の光が高い窓から差し込み、白い石膏像に長い影を落としている。

 

 

 

人体デッサンの授業で、モデルを描く課題が出たのは初めてだった。しかも今回は「学生同士でペアになって描き合う」という条件つき。ミサは、絵を描くこと自体は好きだが、自分が描かれる側になるとは思っていなかった。

 

 

 

「じゃあ、ペアは……伊集院くんとミサさんね」

 

 

 

教授の何気ない一言に、心臓が跳ねた。伊集院健・・・絵画専攻の三年生。落ち着いた物腰と、卓越したデッサン力で知られる先輩。学食や廊下ですれ違うたび、柔らかく笑いかけてくれるが、距離感のある人だと思っていた。

 

 

 

「よろしくね、ミサさん」

 

 

 

その日の放課後、伊集院はアトリエの奥、簡易カーテンで仕切られたスペースを指差した。そこは小さなステージのように白い布が敷かれ、柔らかな照明が備えられている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここなら静かだし、光もきれいに入るから」

 

 

 

伊集院の声はいつもより低く、少し緊張しているように聞こえた。ミサも小さく頷いた。

 

 

 

「……こちらこそ、お願いします」

 

 

 

頭では、ヌードモデルは芸術の一部だと理解している。だが、自分がその対象になるとなると話は別だ。手のひらに汗がにじむ。心臓も鼓動する。

 

 

 

「先に僕から描こうか。ミサさんはモデルになってくれる?」

 

 

 

伊集院の言い方は丁寧で、どこか儀式めいていた。ミサは用意してきたガウンを脱ぎ、胸元を押さえながら台の上に立つ。息が浅くなる。自分の鼓動がやけに大きく響く。

 

 

 

「……緊張するよね。でも、これは勉強の一環だから。嫌なことがあったらすぐ言って」

 

 

 

伊集院は視線を逸らさず、静かに言った。その瞳には、好奇心でも欲望でもない、純粋な観察の光が宿っている。ミサはようやく少しだけ、肩の力を抜いた。

 

 

 

「はい……大丈夫です」

 

 

 

伊集院は鉛筆を走らせ始めた。紙の上にカリカリという音が響く。ミサは姿勢を保ちながら、彼の視線が自分の肌をなぞるのを感じていた。恥ずかしさよりもむしろ、不思議な安堵感が広がっていく。自分の体が線と陰影に分解され、ただの形として紙に移されていく感覚――。

 

 

 

最初の数分は、時間がゆっくり流れるようだった。台の上に立つ自分の呼吸、伊集院の呼吸、鉛筆の音だけが世界を満たしている。ふと、窓の外から鳥の声が聞こえた。小さな音が、むしろ場の緊張を和らげた。

 

 

 

「少しポーズを変えてもいい?」

 

 

 

伊集院が鉛筆を持ったまま尋ねる。声は柔らかく、指先だけでポーズの角度を示す。その仕草が妙に落ち着いていて、ミサも自然に従うことができた。

 

ありえないポーズで誰にも見せたことが無い。恥ずかしいはずなのに、嬉しい。

 

 

 

「ありがとう。とても良いポーズだったよ」

 

 

 

差し出されたスケッチブックには、自分の知らない自分がいた。しなやかな線と陰影で描かれた裸の女性。そこには羞恥も恐怖もなく、ただ一人の人間としての静謐さがあった。

 

 

 

「……こんなふうに見えてたんですか、私」自分の心にあったはずのエロティシズムは無くそこには美しさがあった。

 

 

 

「うん。きれいだと思った」

 

 

 

伊集院は淡々と、しかし真摯に答えた。その声に、心の奥が微かに震えた。

 

 

 

「次は、僕の番だね」

 

 

 

伊集院がガウンを脱ぐ。鍛えすぎていないが均整のとれた体が現れる。今度はミサがスケッチブックを構える番だった。手にした鉛筆が震える。先ほどまでの羞恥は嘘のように消え、代わりに観察者の集中が訪れる。光と影、筋肉の走り、指先の微妙な角度――鉛筆が紙の上を走るたびに、伊集院という人物が少しずつ立ち上がってくる。

 

 

 

「こうやって描かれるのって、どんな感じですか?」

 

 

 

思わず尋ねると、伊集院は少し笑った。

 

 

 

「不思議だよ。自分が形になっていく感覚。恥ずかしさもある、でも解体されてるみたいに感じる」

 

 

 

その言葉に、ミサは小さく頷いた。描きながら、伊集院の目の奥に見えないものを探してしまう。裸というのは弱さの象徴ではなく、むしろ誰にも隠せない本質なのかもしれない。伊集院が静かに呼吸する音、鉛筆の音、自分の心臓の音が一つに溶けていく。

 

 

 

やがて、ミサは鉛筆を置いた。

 

 

 

「できました……」

 

 

 

伊集院はそっと近づき、彼自身の姿が描かれた紙を覗き込んだ。彼の瞳に驚きが浮かぶ。

 

 

 

「……すごいね。僕のこと、全部、ちゃんと見てくれたんだ」

 

 

 

「先輩が私を描いてくれたとき、怖くなかったんです。だから、私も……」

 

 

 

言いながら、ミサは自分の頬が熱くなるのを感じた。伊集院は一瞬だけ視線をそらし、そして微笑んだ。

 

 

 

「ミサさん、今日のこと、きっと忘れないと思う」

 

 

 

「私もです」

 

 

 

その瞬間、カーテンの外から教授の声がした。

 

 

 

「二人とも、もう時間だよ」

 

 

 

現実に引き戻されるように、二人は慌てて服を着た。外の光はすでに夕暮れに変わり、アトリエには長い影が伸びている。荷物をまとめながら、伊集院がぽつりと言った。

 

 

 

「人を描くって、難しいけど面白いね。形だけじゃなく、その人自身が見える」

 

 

 

「はい。私、少しだけ怖くなくなりました」

 

 

 

ミサはスケッチブックを抱きしめる。そこには、線と陰影に変換された二人の時間が確かに刻まれていた。外に出ると、春の風が頬を撫でた。まだぎこちない距離感のまま、二人は並んで校門へ向かう。沈みかけた太陽が、ガラス窓に反射してオレンジ色の光を跳ね返している。

 

 

 

ミサは心の奥に芽生えた小さな感情をそっと確かめた。――これは恋かもしれない。けれど、それ以上に大切なのは、今日感じた「表現すること」の力だ。伊集院もまた、同じように何かを感じているようだった。二人の間に、まだ言葉にはならないけれど、確かに何かが流れていた。

 

 

 

その日のスケッチは、後にミサの制作の原点となり、伊集院にとっても特別な記憶として残り続けることになる。

 

 

クリエイターのプロフィール
メンズエステ歴は30年です。 健全店での、イレギュラーな展開SKR.TKK.F.HRへの誘導が大好きです。HPB店での誤爆コントロールは得意です。脱毛も好きです。 失敗もたくさんしました。
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