口コミ通りの当たりセラピでした


「先輩、最近メンエス行ってます?この店の“ユイ”、やばいらしいですよ」
昼休憩の狭い喫煙所で、後輩がスマホを見せてきた。
画面には、口コミ記事のタイトルが並んでいた。
“当確セラピ!”
“今話題のあの女優に似てた”
“そこまでできるんやったら言っといてや!”
セラピストのホームページを見る。
写真はない。
名前は「ユイ」。
それだけだった。
「行ったことあるん?」
と聞くと、後輩は少し笑った。
「いや、ないです。でもここまで書かれると、逆に気になりません?」
何が逆かはよくわからないが、確かに気になった。
それぞれの記事の内容は具体的だった。
Tシャツ1枚で出迎えられる。
水かお茶か聞かれるが水しかないこと。
ソファに座る時、近すぎず遠すぎない距離感。
笑う時に少しだけ肩が上がる癖。
足湯がある。
指圧マッサージがマジでいい。
肝心のメンエス的な施術内容については記事が更新されるたびにどんどんエスカレートしている。
「四つん這い、好きですか?」
と聞かれてからの話は、メンエスでそんなことあるか?と思うようなものばかりだった。
読んでいるうちに、まだ会ったこともないセラピストが、頭の中で勝手に完成していった。
数日後、私はなんとか予約した。
店員の対応は丁寧だった。
大阪のマンションの11階の1102号室。
受付から送られてきたSMS通りにインターフォンを鳴らす。
「はーい」の声と共にオートロックが開いた。
1102号室のドアの前、少し髪を触りチャイムを鳴らす。
ドアが開き、
「どーぞー」
女が出てきた。
私は一瞬、言葉を失った。
あまりにも想像通りだったからだ。
口コミで読んだ“ユイ”が、そのままそこにいた。
笑う時、少しだけ肩が上がる。
ソファに座る距離感。
水しかないこと。
施術中も、私は妙な感覚に包まれていた。
初対面なのに、初対面ではない。
会話も、どこか答え合わせのようだった。
「結構、口コミとか読むタイプですか?」
急に聞かれ、私は曖昧に笑った。
「まあ、少し」
「ですよね」
彼女は小さく笑った。
「最近、お客さんみんな同じ反応するんです」
「同じ?」
「“思ってた通りでした”って顔に書いてますよ」
彼女はそこで少し黙った。
「最初は嬉しかったんです。でも最近、自分でもわからなくなってきて」
「何がですか」
「本当の自分」
「最初は、誰かが書いてくれた1つの口コミだったんです」
彼女は、自分に言い聞かせるみたいに続けた。
「距離感が心地いい、とか。笑い方が可愛い、とか」
彼女は少し笑った。
「そしたら、次のお客さんも、それを期待するじゃないですか」
私は黙っていた。
「合わせてたんです。期待外れにならないように」
「それで人気が出た?」
「はい。でも」
彼女は天井を見た。
「繰り返してるうちに、どれが最初の自分だったのかわからなくなっちゃって」
エアコンの音だけが響いた。
「四つん這い、好きですか?」
施術は“過去最高”だった。
帰る時、彼女はエレベーターが来るまでドアの隙間から見送ってくれた。
驚いた。
これは口コミにはなかった。
エレベーターが来る直前、彼女が言った。
「あ、そうだ」
「はい?」
「口コミ、あんまり詳しく書かないでくださいね」
私は少し笑った。
「なんで?」
彼女も笑った。
「似せるの、大変なんで」
「よかったら、また会いに来てくださいね」
扉が閉まった。
帰りの電車で、私は口コミサイトを開いた。
新規記事のページを開く。
タイトル
「口コミ通りの当たりセラピでした」
“帰り際、エレベーターの扉が閉まるまで見送ってくれた。あの数秒だけで、リピ確!”
少し考えて、消した。
“ユイが僕に打ち明けた人気の真相は【有料部分】で”
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