ソファ

メンズエステを長くやってると、
何が大事で、何がいらないかが、はっきりしてくる。
マッサージとか、気遣いとか、空気づくりとか。
もちろん、それも大事。
でも、
わたしが一番大事にしてるのって、ムダがないこと。
ここは遊ぶ場所じゃないし、
仕事は仕事。
長引かせるより、
短時間で、効率良く稼ぐ。
――そのほうが、わたしには合ってる。
⸻
ルームに入ったら、まずソファに座る。
基本、わたしはここから動かない。
マット?
一応、あるよ。すぐそこに。
でも使わない。
だって、掃除めんどくさいじゃん。
オイルも、なるべく使わない。
ベタベタするし、あとが大変。
ここで全部できるって、
もう知っちゃってるから。
ソファの裏には、充電器と飲み物。
クローゼットも、手を伸ばせば届く距離。
――わざわざ、移動する意味ある?
⸻
「はじめまして。リナです」
少し首を傾げて、にこっと笑う。
それだけ。
でも、それで十分だった。
目が合った瞬間、相手の視線がわずかに熱を帯びるのがわかる。
あ、掴めたな。
新規の指名客。
緊張と期待が混ざった、あの目。
――はい、勝ち。
いつものように隣に座って、軽くおしゃべり。
空気がほぐれたら、身体を密着させて、太ももに手を置いて少し甘い声でオプション説明。
「おすすめは……」
指を絡めながらそう言えば、ほとんど迷わず全部つく。
例外はほぼない、みんな、そう。
⸻
シャワーを促したら、
わたしはソファで待つだけ。
もう着替えてあるし、準備もいらない。
ゆっくりスマホでも見てればいい。
戻ってきた客を、
ソファの空いたスペースを手のひらで軽く叩いて甘く誘う。
「こっちきて」

マイクロに着替えたわたしの姿を見て、息を呑むのがわかる。
その反応を見るのが、ちょっと楽しい。
マッサージ?
一応するよ。脚を絡めて密着して、指を優しく絡ませる。
そのまま、太もものあいだに手を挟む。
それだけで、客はちゃんと喜ぶ。
そして、下半身も……。
「……なんか、おっきくなってるよ」
そこからは、みんなどんどんオプションを追加していくの。
マイクロを抜いでほしい、とか、お口でしてほしい、とか……本番してほしいとか——
え?わたしが誘ってるって?
そんなことないよ。
ただ、わたしは一生懸命マッサージしてるだけ。
たっぷり密着して、ゆっくり身体を撫でているだけ。
そして耳元で囁くの。
「……どう? 気持ちいい?」
そしたら、みんななぜか、ソファで裸になって腰をふっているし、なぜかわたしまで……
⸻
ソファの上で、全部終わらせる。
それが、わたしのメンズエステやり方。
無駄な動きはしない。
余計な準備もしない。
でも、ちゃんと一生懸命奉仕してるよ。
だから結果もすぐ出た。
指名は増えて、いつの間にか、No.1。
正直、
メンズエステって、思ってたよりちょろいなって思った。
⸻
マットは、今日も使われていない。
当然、ピカピカ。
ある日、オーナーからLINEが来た。
「リナちゃんって、いつも部屋の使い方きれいだよね。あんなに人気なのに、マットが特に綺麗だって、みんな褒めてるよ。今度、掃除のコツ、他の子にも教えてあげてほしいな」
⸻
「ありがとうございます。みんなが使いやすいようにしてるだけです♡」
そう返信して、ソファに体を沈める。
スマホを充電につないで、次の予約を確認する。
そろそろ、次の客が来る時間。
――わたしは、今日もマットを汚さない。
⸻⸻
ソファに体を沈めながら、スマホを見る。
次の予約は、また新規。
――まあ、誰でもいいけど。
このあと、わたしの仕事は少しずつ変わっていく。
この店で、
ある客に出会うまでは。
※この物語は
「セラピスト・リナ」シリーズの前日譚です。
